広報よこはま2ページ 2025(令和7)年1月号 No.911 循環型の地球にやさしい社会をヨコハマから  私たちの生活に深刻な影響を及ぼす気候変動への対策を推進するため、 横浜市は、世界最大の家具量販店イケアの日本法人であるイケア・ジャパン株式会社と連携協定を締結し、 循環型社会や脱炭素化への取組を共に進めています。  地球環境にも人にもやさしいこれからの暮らしについて、同社のファーレ社長と山中市長が語りました。 環境型社会のイメージ 原材料→ 作る→ 使う→ 新しい原材料に→(リサイクル素材) 使う→ 直す→ 使う   使う→ 譲る→ 使う ヨコハマから地球にやさしい行動を ファーレ社長(以下ファ)私の出身のスウェーデンの人達は、気候変動や自然の減少がもたらす影響について、 積極的に学び、脱炭素に向けた行動をしています。イケア・ジャパンでは、日本においても、 気候変動などの社会的課題の解決につながる消費者行動を促進し、それを後押しする店舗の運営や、 製品の品質向上に取り組むことが企業としての大切な役割と考えています。  まず、2018年からすべての大型店舗において、二酸化炭素等をほとんど排出しないクリーンなエネルギーを100%使用して、 お客様をお迎えしています。2013年からは社内のすべての電球にLEDを使用し、 現在、イケアで販売しているのもLED電球のみです。  今後は、すべての輸送用大型トラックをガソリン車から電気自動車(EV)に切り替えて、 製品輸送にともなうCO2排出ゼロを目指しています。 お客様のご自宅に商品をお届けするサービスでもEVトラックを使用しています。 山中市長(以下山)EVの使用は、CO2削減に向けた大切な取組ですよね。 市役所としても、公用車やごみ収集車を、EVに切り替えていくのはもちろんですが、 市内で進められているEV化を後押しするため、急速充電器の設置を加速しています。 車を使用しない時間帯にゆっくり充電する普通充電以外に、出先の渋滞や充電忘れでバッテリー残量が少なくなった場合に、 急速充電器が利用できる環境が整わないと、EVは普及しません。  横浜市には、現在、自治体最多となる200のEV急速充電器が設置されていますが、 2030年度までに400に倍増させます。また、EVトラックなどの大型車が利用できる急速充電スポットを、 日本で初めてみなとみらい地区の公道上に設置しました。 ファ 素晴らしい取組ですね!行政がこういう社会基盤を整えてくれると、環境に優しい取組が横浜でどんどん広がりますね。 ごみをださない循環型社会へ 山 イケアでは、できるだけリサイクル素材(ある産業で生産され使用済となったものを、 単に廃棄せずに加工しなおして作り出された素材)などを使って新たな製品を作ることを重視されているとお聞きしました。 「できるだけ廃棄物を出さずに再活用する」という、いわゆる循環型社会の考え方ですよね。 ファ プラスチック、金属、木材、繊維など多岐にわたりますが、 弊社製品の原材料には、リサイクル素材や再生可能素材の使用を進めています。 現在の製品の原材料のうち、17%がリサイクル素材を使用し、56%が植物などの再生可能素材を用いています。 そして、2030年までに、全ての製品を、リサイクル素材や再生可能素材のみで製造することを目指しています。  また、イケアでは、お客様から買い取ったイケアの家具や店頭展示品などを購入できる 「サーキュラーマーケット」を全店舗で展開しています。 2023年までに買い取った家具は45,000点。これらは十分に点検や修理をして販売しています。 お客様に使い捨てではない製品を推奨して、製品に第2の人生を与えたいと思っています。 限りある資源を有効に活用し、新たな廃棄物の量も減らすことで、循環型社会の未来に近づきたいと思います。 排出ガスゼロのイケアEVトラック 日本初のEVトラックも利用可能な公道上急速充電ステーション 買い取られた家具の購入が可能なサーキュラーマーケット 山 これまでのビジネス目線だと「新しいものをどんどん売る」という考え方もあるのかもしれませんが、 今は気候変動や環境に配慮した取組が企業価値に直結する時代ですね。 ファ 私達は、リサイクルや買い取り等をはじめ、一つの製品を色々な意味で 「長く使ってもらえる」ことが「良いビジネス」だと思っています。 もっとも重要なのは、家庭のことだけでなく、世界や地球全体のこととして考えていく視点です。 人々の暮らしを豊かにするのはもちろんですが、 長く使ってもらえる製品を提供して地球にもやさしくなることが重要だと思います。 そのような視点をもち、未来に向けて、妥協せずにチャレンジしていきますし、 それがイケアに求められている社会的責任だと考えています。 山 「循環型社会」というと、難しく聞こえるかもしれませんが、身近なところから取り組めるんですよね。  一例として、横浜市では、家庭で食べきれない未使用の食品を寄付する「フードドライブ」を実施しています。 CO2排出の原因にもなっている「食品ロス」の削減や、「食の支援」につながる、環境にも人にもやさしい取組です。  区役所などの公共施設、市内で開催するイベント等に食品を持ち寄ってもらい、 集めた食品はフードバンク団体や社会福祉協議会を通じて、ひとり親家庭やこども食堂、福祉施設などに寄贈しています。 2023年度には10トン以上の食品を寄贈しました。市内の小売店舗でも実施されるなど、取組はどんどん広がっています。 今後も、「もったいない」を「ありがとう」につなげるフードドライブの取組を広げていきます。  また、ご家庭で揚げ物に使った油(廃食油)を再資源化し、 飛行機の燃料に生まれ変わらせるユニークな取組に参画しています。市民の皆様に、専用ボトルに廃食油を入れて、 スーパーなどの回収スポットに持ち寄っていただいています。 廃食油から作られた航空燃料は、従来の燃料に比べてCO2排出量を約80%削減することができると言われているんです。  一人ひとりの行動の積み重ねは、やがて、社会を変える大きな力になります。そして、市民の皆様に、 生活の中の身近な行動が循環型社会につながっていることを実感していただきたい、と思っています。 ファ イケアにはレストランがあるのですが、レストランのコーヒーから、大量のコーヒーかすが発生します。 イケア港北独自の取組として、それを農家の方に週1回約100kgお渡しして、肥料の原材料として利用していただいています。 山 横浜市でも、下水を処理する過程で発生した「リン」を取り出し、 それを肥料として市内の農家で使っていただく取組を開始しています。 下水が農家にとって価値ある資源に変身するとは思いもよりませんでした。  その他にも、使用済みペットボトルを回収して加工し、新たなペットボトルを作る取組も進めています。 この方法だと、一からペットボトルを作る方法に比べて、製造時に発生するCO2を約60%減らすことができるんです。 さらに不要になった服を回収して加工を行い、新たな服に生まれ変わらせる取組等も進んでいます。 技術が進化すれば、さらに色々なものがリサイクルできるようになると思います。 環境にも人にもやさしいまちへ ファ 横浜市は先進的な気候変動対策のほか、子育て支援にも最優先に取り組んでいて、 とても住みやすいまちだと思います。 横浜市とイケアの間に、持続可能な社会に向けて、良きパートナーシップがあることを幸せに思います。 イケアは今後も、人々が働き、生活する環境を支援したいと思っていますし、 社会的・経済的に困難な状況にある方へのサポートも行っていきます。 私の大好きな横浜がより良いまちになるようできる限りの貢献をしたいと思っています。 山 横浜市としても、環境先進企業のイケアとのパートナーシップは心強く、 今後も、新たな取組を一緒に生み出せたらと思います。 これまで捨てられていたものを再利用や再資源化することで、 生活に役立つ製品として生まれ変わらせ、それを市民の皆様の日常の中でご利用いただく。 こういうサイクルが浸透すれば、「環境にも人にもやさしいまち」にさらに近づくと思います。 飛行機の燃料に生まれ変わる廃食油のリサイクルボックス コーヒーかすを用いた肥料 みなとみらい地区のペットボトルリサイクルボックス ペトラ・ファーレ ●イケア・ジャパン株式会社 代表取締役社長(CEO) 兼 Chief Sustainability Officer(CSO) ●スウェーデン出身。2000年にイケア・スウェーデン入社。イケア・ポーランドの副社長などを歴任後、 ベッドルーム部門の世界展開に関わるビジネス戦略や製品開発などの責任者として活躍。2021年8月から現職。 ●趣味は子どもたちとのスキー、日本探索。 イケアについて  1943年にスウェーデンで創業され、現在はオランダに本社をおく世界最大の家具量販店。 現在、世界31カ国で店舗を運営(日本法人のイケア・ジャパンは2002年に設立)。  「循環型社会を促進させることで、イケアのビジネスを成長させながらも資源の再生を行う」という方針の下、 カーボンフットプリントの削減に取り組むなど、気候変動対策の分野でリーダーシップを発揮している。