ページ6 第1章 障害の特性に応じた配慮の基本 この章では、障害の特性について記述し、それぞれに求められる基本的な配慮についてまとめています。場面ごとの配慮については第2章で説明しています。 ほんの少しの気配りや気遣いでも、障害のある人の直面している困りごとを解決する大きな力になります。まずは、できることから順番に実践していきましょう。 配慮の大原則 障害の特性を理解し、障害のある人の立場に立って考える。 情報の重要性を認識し、障害の有無にかかわらず実質的に同等の情報のやりとりが速やかに行えるよう努める。 必要な配慮や手段はその人ごとに異なることに留意し、意向を確認して柔軟に対応するようにする。なお、ガイドラインの内容の押しつけにならないよう注意する。 障害のある人の人格を尊重し、プライバシーや誰にも言えないコンプレックスなどにも配慮する。 情報をやりとりする際、単一の方法では特定の障害のある人が情報を利用できないことがあるので、可能な限り複数の方法を用意するよう努める。特に、生命・身体や福祉サービスに関する情報、権利の取得又は喪失に関する情報など、重要な情報のやりとりにあたっては、あらかじめ複数の方法を用意する。 障害の状況により、意思疎通支援(注釈1)をしても困難な場合もあることを理解し、意思決定支援(注釈2)などのサポート方法を用意する。 注釈1 意思疎通支援とは、聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため、意思疎通を図ることに支障がある障害者とその他の人の意思疎通を支援することをいう。 注釈2 意思決定支援とは、自ら意思を決定することに困難がある人が、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように、可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援することをいう。 注釈は以上です。 在宅で生活している人には家族や身近な支援者の支援や配慮も欠かせないことから、制度やサービスを広報・周知する際には、家族・支援者・団体等、本人以外にも必要な情報が伝わるよう配慮する。 本人の意思で物事を決めること(自己決定)を意識する。分からない、伝わらないと決めつけず、本人に適切な方法で伝わるよう努める。 ページ8 視覚障害のある人 視覚障害は、視力、視野など、「見る」機能についての障害です。以下のように、人によって見え方は様々です。 全盲 全く見えない。 弱視 ぼやける、細かい部分がよく分からない。 視野障害 見える範囲が限定される。 視野の周囲や中心視野の欠損、右又は左半分など一部が見えず、移動や生活動作に障害がある、周囲が見えず移動に障害があるが手元の文字は見える、文字は見えないが移動は可能である、など。 光覚障害 暗いところで極端に視力が低下する、又は他の人にはまぶしくない程度の明るさでも過敏になる 視覚から情報を得られず他の感覚を活用する人もいれば、適切な配慮や器具によって視覚の一部を活用できる人もいます。 先天的または早期に障害のある場合と、視覚を活用して生活していた人が後天的に視力・視野が障害される場合(中途視覚障害)とがあり、活用できる能力・手段と必要とされる配慮はその人の生い立ちや環境によっても異なります。 主な特性と配慮のポイント 全盲の人は、音声や点字など、主に聴覚や触覚により情報を得ているので、その人に応じた方法で情報を提供する。 弱視(ロービジョン)の人は、音声などのほか、拡大文字や専用機器などを利用して視覚からも情報を得ているので、その人に応じた方法で情報を提供する。 点字は重要な情報伝達手段だが、中途視覚障害者を中心に、点字の読み書きができない人も多くいるので、音声や利用しやすい電子データなど、点字以外でも情報を提供する。 他の人による代読・代筆を利用することもあるので、必要としている範囲で情報を提供する。なお、自署ができる人もいるので、本人に確認する。 白杖や盲導犬を利用して単独で移動できる人もいるが、そのような人でも不慣れな場所では移動の際に案内や誘導の配慮を必要としている。 パソコンやスマートフォンの音声読み上げ機能を利用して情報を入手したり、入力した文章を送信できる。視覚障害のある人にとっての重要な情報のやりとりの手段になってきており、この方法は、その人の状況に応じて活用する。 視覚障害のある人のコミュニケーション手段 点字 指先で触れて読む文字で、6つの点の組み合わせで表現されています。 縦3個、横2個の6つの点が一つの単位(マス)で、凸状の点の有無の組み合わせで五十音や数字、アルファベット、記号を表しています。 点訳を請け負う団体・事業者があるほか、点訳ソフトと点字プリンタを備えたパソコンで点字文書を作成することもできます。 ここに図があります。 よこはま、を点字で表した図で、下に「点字の例」と書かれています。 ここで図は終わりです。 拡大文字 弱視の人が読めるよう、大きなサイズの文字で印刷します。行間、字間、書体、字の太さなどにも配慮が必要です。 音声コード 小さな白黒の点の組み合わせで構成される二次元コードで、数百文字の情報が収録されています。印刷物に貼り付けることで、専用の読み取り装置や、音声コードリーダーが搭載された携帯電話、対応アプリをインストールしたスマートフォンを利用してコードを読み取り、収録内容を音声で読み上げさせることができます。 (46ページ参照) 46ページには、音声コードが使用されている水道料金のお知らせの画像が掲載されています。 スクリーンリーダー パソコンやスマートフォンなどで利用するアプリで、画面の表示内容や選択状況、ユーザの操作等を合成音声で読み上げます。また、特にウェブサイトの閲覧・操作を行うための音声ブラウザと呼ばれるソフトもあります。 点字ディスプレイ パソコン画面の表示内容やテキストデータなどを点字で表示する機器です。多数のピンの浮き上がりで点字を表示する仕組みで、携帯できるものもあります。 (48ページ参照) 48ページには、点字ディスプレイの写真と説明文が掲載されています。 ページ11 聴覚障害のある人 聴覚障害は、聴力を中心とする「聞く」ことはもちろん、会話をする、情報を得る及び情報を伝えることが困難な障害です。 聴覚障害の状況は人によって異なり、全く聞こえない人も、補聴器なしで会話が聞き取れる人もいます。先天的に障害がある場合と、聴覚を活用して生活していた人が後天的に聴力を失う場合(中途失聴)とがあり、活用できる能力・手段と必要とされる配慮はその人の生い立ちや環境によっても異なります。 聴覚障害のある人のうち、手話を言語として日常生活又は社会生活を営んでいる人を「ろう者」といいます。 主な特性と配慮のポイント 外見から障害が分かりにくいため、声をかけたのに返事をせず無視されたと誤解されることもある。発声・発語できる人もいるが、そのために聴覚障害がない、聞こえていると誤解されることがある。 発声・発語が困難な人は、音声以外の方法を使う必要がある。 音声の代わりに文字や図などで情報を提供すると、視覚から情報が得られる。 音声での会話以外に、手話(注釈1)、要約筆記(注釈1)、触手話、指点字、筆談、キュードスピーチなどの方法がある。(12から13ページ参照。12から13ページには、聴覚障害のある人のコミュニケーション手段が掲載されています。) 複数を併用する場合もあるが、人によって利用できる方法は異なるため、障害のある人が複数いる場合にもお互いのコミュニケーションが行えるよう留意する必要がある。 注釈1・手話、要約筆記 手話通訳や要約筆記においては、手話通訳士倫理綱領により通訳として触れた内容を第三者には漏らさないという守秘義務が課されている。 手話通訳者や要約筆記者は、情報を伝える支援者であり「第三者」「保証人」「ヘルパー」と役割が異なることに留意する。 注釈は以上です。 難聴者では、補聴器や人工内耳を利用して聴力を補う人もいる。音としては聞こえていても言葉として認識できないこともあるので、内容が伝わっているか確認するよう配慮する。軽度の難聴では、静かな場所では聞き取れても、騒がしい場所ではまったく聞き取れなくなることもある。 聴覚障害がある人は、相手の口の動きや表情を見て話を理解することもあるため、適切な距離を確保できる場合等には、口の動きが見えるようにマスクを外してコミュニケーションをとる。または、マスクに代えてフェイスシールドや透明アクリルシート(透明なマスク)等を用いる。 補聴器を使っている人には、近づいて、正面から普通の大きさの声で話しかける。3メートル以上離れると補聴器は音を拾わなくなる。 片耳が聞こえにくい人には、正面もしくは、聞こえる側から話しかける。相手が気づくような合図をしてから話しかけるとよい。 加齢による難聴がある人は、大きな音がかえって聞き取りにくい場合があるので、大声を出すのではなく、正面から口元を見せてゆっくり・はっきり話しかける。 聴覚障害のある人のコミュニケーション手段 手話 手指の動き(指さしを含む)や眉・目・口などの表情などを使って概念や意思を視覚的に表現する視覚言語です。ろう者は、手話を言語として日常生活を送っています。 手話は音声言語(日本語など)とは異なる言語体系を持ちます。名詞・動詞ではなく五十音、数字、アルファベットなど、音声言語の文字そのものを表現する場合には、手指の形や動きで表現する指文字が使われます。 手話通訳者は、手話と音声言語の両言語間を通訳し、それぞれを使う人の間でのコミュニケーションの橋渡しをします。手話通訳者を介してろう者と対話をする場合であっても、ろう者本人を正面から見て話します。 要約筆記 その場の音声をその場で要約等の技法を使い同時性をもって、文章で示し、聴覚障害のある人に伝える方法です。手で書いて伝える手書き要約筆記と、パソコンで入力して伝えるパソコン要約筆記があり、それぞれに、ノートテイクと全体投影という手法があります。ノートテイクは1〜2名の聴覚障害者に対して、紙やパソコン画面で文章を見せる方法、全体投影はスクリーンを立てて文章を投影し、大勢の人が一度に見ることができる方法です。 触手話 相手の手話を聴覚障害者が触って読み取る方法です。また、相手が聴覚障害者の手を取って手話の形を作って伝える方法もあります。 指点字 聴覚障害者の両手の指(人差し指、中指、薬指)6本を点字の6点に対応させ、通訳者が聴覚障害者の指に打って伝えます。 筆談 紙と筆記具や筆談具、タブレット端末などを利用して、互いに文字を書いてコミュニケーションを行う方法です。 読話・口話 読話は、話し手の唇の動きや表情から状況を推測して話の内容を読み取る方法です。読話と、訓練により音声で話せるようになる発語を用いてコミュニケーションを行う方法を口話といいます。読話は集中力を必要とするため極度の精神的疲労を伴い、また確実さにも個人差があります。 そのほかに、母音の口形とともに手指のサインで文字を表現するキュードスピーチが、口話を補助する方法として使われることがあります。 キュードスピーチ 日本語の音韻を「ア・イ・ウ・エ・オ」という五つの 母音の口形とキューサインとの組み合わせによって表しながら話す方法のことをキュードスピーチといいます。キューサインとは、日本語の子音の音素レベルを表す記号(キュー)を手指の位置や形で表したものです。 ページ14 盲ろう者 盲ろう者とは、視覚と聴覚の両方に障害のある人のことです。全く見えず全く聞こえない人もいますが、見えにくく聞こえにくい人も盲ろう者に含まれます。一般には、以下の4つに分けられます。 全盲ろう 全く見えず、全く聞こえない。 全盲難聴 全く見えず、聞こえにくい。 弱視ろう 見えにくく、全く聞こえない。 弱視難聴 見えにくく、聞こえにくい。 障害の発生時期や障害の程度、活用できる感覚により、情報の取得方法、コミュニケーションの方法は異なるので、それぞれ個別に対応する必要があります。 視覚・聴覚のいずれかの障害が先行していた人もいれば、先天性の盲ろう者、成人期以降に視覚・聴覚両方の障害を生じた人もいます。成人してから点字や手話を学ぶには大変な努力が必要なので、手のひらに文字を書く、紙に大きな字を書いて筆談するなどの手段を用いることもあります。 盲ろう者には、コミュニケーション、外出(移動)、情報収集のいずれにも困難さがあります。社会とのつながりを保ち、娯楽や会話などの楽しみ、外出機会などを確保するためにも、盲ろう者向け通訳・介助員によるサポートが不可欠です。 主な特性と配慮のポイント 盲ろう者は視覚・聴覚の両方に障害がある。各々の障害のある人に対する配慮と同様の配慮が有効な場合もあるが、下記のように盲ろう者特有のコミュニケーション手段もあることに留意する必要がある。 弱視や難聴の場合、適切な配慮や環境があれば視覚や聴覚も活用できる。 盲ろう者が情報を得るには、活用可能な感覚に応じて、触手話、弱視手話、指文字、指点字、点字、手のひら書き、音声、筆記、パソコンなどを活用しているので、その人に応じた方法で応対する(次のページ参照。次のページには、盲ろう者のコミュニケーション手段が掲載されています。)。 盲ろう者が意思を表す際、音声で話せる人は音声を活用することが多い。それ以外に、手話や指文字などで意思を表す人もいる。 聴力の残っている盲ろう者に話しかける場合、向かい側からではなく、聴き取りやすい方の耳の真横から向かって話すようにする。 盲ろう者のコミュニケーション手段(情報を得る場合) 触手話 相手の手話を盲ろう者が触って読み取る方法です。また、相手が盲ろう者の手を取って手話の形を作って伝える方法もあります。 弱視手話 視力の残っている盲ろう者が用います。盲ろう者が読み取れるよう、視力や視野に適した位置や大きさで手話を表現して伝えます。 指文字 手指の形で五十音やローマ字を表現します。視覚で読み取る場合と、触って読み取る場合とがあります。 指点字 盲ろう者の両手の指(人差し指、中指、薬指)6本を点字の6点に対応させ、通訳者が盲ろう者の指に打って伝えます。 点字 その場で点字器や点字タイプライタを使って書いた点字を、盲ろう者が読み取ります。また、パソコンに接続した点字ディスプレイを利用する人もいます。 手のひら書き 盲ろう者の手のひらに指で文字を書いて伝える方法です。盲ろう者の指を持ってもう片方の手のひらや机などに書く方法もあります。 音声 聴力が残っている場合に、聞き取れる耳や補聴器に向かって音声で話しかけます。 ただし、大声で話しかけると痛みを感じる人もいるので、声の大きさより、ゆっくり、はっきりと話すことが必要となります。 筆記 視力が残っている場合に、紙とサインペンなどを利用して、見やすい大きさ、太さ、間隔、コントラストで書いて伝えます。 パソコン画面 視力が残っている場合に筆記の代わりにパソコン画面を利用して伝えます。文字の大きさや色、コントラスト、明るさ等が調節しやすく手書きよりも早く書けます。 ページ17 音声機能障害、構音障害、吃音などのある人 言葉を発する際の障害として、音声機能障害、構音障害、吃音などがあります。 音声機能障害 音声機能障害とは、喉頭(のど)や発声筋等の音声を発する器官に障害があるため、音声や発音、話し方に障害がある状態のことです。 例えば、無喉頭、がん等による喉頭の摘出手術、発声筋麻痺などにより音声が出ない場合などがありますが、訓練により食道発声をしたり、人工喉頭を使用したりして会話ができるようになる人もいます。また、肢体不自由の状態にある人の中にも、発語にかかわる運動機能の障害によって話し方が不明瞭になる人がいます。 構音障害 構音障害とは、構音器官(口唇、舌、下顎、口蓋等)の障害又は形態異常により、発音(構音)が不明瞭になる状態のことです。構音障害には、唇顎口蓋裂の後遺症による口蓋裂構音障害、末梢神経及び筋疾患に起因する舌、軟口蓋等の運動障害による構音障害、舌切除等による構音器官の欠損によるもの、中枢性疾患による運動障害性構音障害、脳性麻痺構音障害等があります。文字盤の使用や筆談ができる人が多く、画面上の文字盤をタッチして音声出力させるアプリを使用している人もいます(トーキングエイドなど)。流涎や嚥下障害など、発語以外の障害がある人もいます。 吃音 吃音とは、話し言葉が滑らかに出ない状態のことです。吃音の症状には、音の繰り返し(連発)、引き伸ばし(伸発)、言葉を出せずに間が空いてしまう(難発・ブロック)などがあります。 吃音の状態には波があり、比較的スムーズに話せるときもあれば、言葉が出にくくなるとき、出なくなるときもあります。他の人から注視・注目されるなどの緊張も影響します。二次障害として、社交不安障害を生じることがあります。 主な特性と配慮のポイント 外見からだけでは、発語に支障があることは分からない場合が多い。また、障害の内容が詳しく知られていないこともあり、違和感を抱かれたり、不適切な対応をされてしまったりすることがある。 音声機能障害のある人との会話は、静かな場所で対応し、落ち着いて話せるように、ゆっくりと話しかける。五十音表や筆談が利用できる人もいる。ファックスや電子メールで遠隔地の障害のある人ともやり取りができる体制を整える。 人工喉頭や食道発声を用いる人は、喉や首に器具や手を当てるために片手を常に使用している場合が多く、特に電話でメモを取ることが難しい。 吃音をはじめ発話に困難がある人は、名前や住所など大切なことを伝えるときには、次の音や言葉が出るまで時間を要することがあり、緊張するとさらに言葉が出なくなることもあるので、本人のペースに合わせて対応する。 筆談や手話等、別の手段の希望があれば配慮する。 ページ19 失語症のある人 失語症は、脳の言語中枢が脳梗塞等の脳血管疾患や頭部外傷などにより損傷されることによって起こる言語障害です。これまで自由に行えていた「話す」、「聞いて理解する」、「読む」、「書く」など、言語を使用する機能に障害が起こります。脳の損傷部位や広がりにより、症状や重症度は異なります。 複雑な内容や長い文章は理解されにくく、仮名より漢字の方が理解されやすいのが一般的です。言いたい言葉が思い浮かばなかったり、違う言葉を言ってしまったりする場合は、聞き手が選択肢を示したり、「はい」、「いいえ」で答えられる質問をしたり、急がせたり焦らせたりせずゆっくり返事を待つようにすると、意思表示が容易になります。また、話し言葉だけに頼らないで、身振りや文字、イラスト、図、カレンダーや地図などを利用すると、コミュニケーションがとりやすくなります。 聴力や音声機能に障害があるわけではありません。 発症後も、その人らしさや人格、知的機能や状況の判断、社会的礼節、これまでの記憶等は保たれていますが、こうしたことが会話からは分かりにくいため、障害が理解されにくく、適切な対応がされないことがあります。 神奈川県では、外出先のコミュニケーションを支援する失語症者向け意思疎通支援者の養成講習会を行っています。また、神奈川県言語聴覚士会が窓口となり、失語症者向け意思疎通支援者の派遣事業を実施しています。 主な特徴と配慮のポイント 言語機能(「話す」、「聞く」、「読む」、「書く」)の一部、あるいはすべてに機能の低下、障害がある。 大脳の損傷部位や広がりによって失語症の症状や重症度が異なる。 軽度では会話のやり取りはおおよそ可能だが、時々聞き誤りがあり、言いたい ことを簡潔に分かりやすく伝えることが難しい。 中等度では、簡単な日常会話のやり取りは可能だが、長い文の理解や発話が難しくなる。 重度では、独力で他者に何かを伝えること、困っていることを自ら伝えることができなくなる。日常会話の理解も困難である。 身体の右側の運動麻痺や感覚障害を伴うことも多い。 視野障害により、右側にあるものが見えにくくなったり、右半側空間無視により、右側に注意が行かなくなることがある。 相手が安心できるような態度、対等な立場で話す。 話しかける時は、文節ごとで区切り、短い文で簡潔に、ゆっくり話す。 同時に、要点を箇条書きにして文字で書くと、理解しやすい(この方法を「要点筆記」という)。文ではなく、単語で書き、日常的に漢字で表記されるものは漢字で書く。 仮名より漢字の方が理解されやすく、五十音表は指差しによる伝達では理解が難しい。 絵や記号(まるばつ、矢印、顔文字等)、カレンダー、地図、身振り等を活用する。 相手が話そうとしているときは、途中で言葉に詰まっても、口を挟まないで、じっくりと待つ。 どうしても言葉が出てこない時は、「はい」、「いいえ」で答えられる質問をしたり、選択肢を示したりして、言いたい言葉を引き出すようにする。 書くことは話すこと以上に困難な場合が多い。単語の一部や絵を書いて伝えようとする人もいるので、筆記用具は準備しておく。 話の内容に行き違いがなく、適切に理解し合っているか確認する。 特に数字は行き違いが生じやすいので、書いて確認することが必須である。 ページ21 肢体不自由の状態にある人 肢体不自由とは、四肢(手や足)や体幹などの機能の一部または全部が、病気や怪我などで損なわれ、長期にわたり、歩行や食事、入浴等の日常生活動作に困難が伴う状態をいいます。 上肢や体幹に機能障害があると、細かいものをつかみ握ること、字を書くこと、書類や冊子のページをめくること、小さなボタン・スイッチ・タッチパネル・キーボード・マウスを操作することなどに支障が生じる場合があります。 また、発声に関する器官の麻痺や不随意運動などにより、音声でコミュニケーションを取ることが困難な場合もあります。 下肢や体幹に機能障害のある人の移動については、歩行補助つえや松葉杖を使用する人、義足を使用する人、車いすを使用する人など様々で、段差や階段、通路の幅などにより移動に支障が生じる場合があります。 また、病気や事故で脳に損傷を受けた人の中には、身体の麻痺や機能障害に加え、言葉の不自由さや記憶力の低下、情緒の不安定さなどを伴う人もいます。 主な特性と配慮のポイント 車いすを使用している人のために、車いすのまま机の下に足が入るようにするなど、窓口や机などの構造・位置に配慮する。 その人に応じた読み書きの際の代読・代筆や手助けなどを行う。 移動、読み書き、会話などに他の人より時間を要することもあるので、時間に余裕を持って応対する。 移動そのものや食事・トイレなどの制約から、外出機会が限られる場合もあるので、対面以外の手段を用意するなどの配慮が必要である。 ページ22 内部障害のある人・難病患者等 内部障害とは、肢体不自由以外の体の内部の障害で、心臓機能、腎臓機能、呼吸器機能、膀胱・直腸機能、小腸機能、HIVによる免疫機能、肝臓機能のいずれかの障害により日常生活や社会生活に支障がある状態です。 また、症状が重く治療方法が確立していない難病等を患っている人も、程度や様態は様々であるものの、日常生活や社会生活に支障があります。 ALS(筋萎縮性側索硬化症) 難病の一つで、発症すると筋肉の萎縮と筋力の低下が急速に進行します。個人差はありますが、早い人では数年で自発呼吸が困難になり、人工呼吸器などの医療的ケアが必要になることがあります。舌・喉の筋肉が動かなくなり、手足も麻痺することで意思の表明が困難になる一方、視覚や聴覚などの知覚、記憶や知性を司る神経は維持されるので、見聞きしたり考えたりすることは引き続き可能です。 声が出せなくなったALS患者の人が意思を表明するには、残された能力に応じて様々な手段を活用します。 通訳 訓練を受けた通訳者が、目や口元のわずかな動きなどを読み取って、他の人に伝える。 文字盤 手や足の指を活用して、文字盤の文字を指し示したり、音声合成装置のスイッチを押す。視線の動きで文字を指し示す透明文字盤もある。また、頻繁に利用する用事などの単語をカードにすることもある。 意思伝達装置 パソコン等を利用した専用機器で、指や目など体のわずかな動きで入力スイッチを操作して、文字や文章を作成するなどして意思を伝える。体が動かなくなった場合に使えるよう、脳の血流量や脳波を活用した意思伝達装置もある。 内部障害や難病の主な特性と配慮のポイント 内部障害は、外見からは障害のあることが分かりにくい場合もある。 疲れやすい人や、長時間立つことや歩くことが困難な人、医療的ケアやオストメイト対応トイレを必要とする人もいる。 五感や体の機能に障害がある場合は、その人の状況に応じた配慮を行う。 様々な制約から外出機会が限られている場合もあるので、情報を得にくくならないよう配慮が必要である。 同じ障害や疾病のある人で構成する患者会や家族会などの当事者団体が、その人にとって重要な情報源になっていることが多い。 その人の状況・症状などを総合的に理解し、利用できる給付やサービスなどの情報収集に努めるとともに、場合によっては他の行政機関や医療機関などにも問い合わせるなどの連携も必要である。 ここに図があります。 タイトル:透明文字盤の例(東京都立神経病院リハビリテーション科作成) 五十音と簡単な言葉の2種類の文字盤の図の下に説明文が書かれています。 説明文:この文字盤を透明な板などに印刷し、利用者(患者)の目と介助者の目との間にかざします。利用者の目の動きに合わせて介助者が文字盤を動かし、視線が合ったところの文字を指すことで文字によるコミュニケーションが可能になります。 図と説明文はここで終わりです。 ページ24 知的障害のある人 知的障害とは、知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)に認められ、日常生活又は社会生活に支障が生じている状態をいいます。障害の程度により必要な援助の内容や量は異なります。 知的障害のある人は、複雑な事柄や抽象的な概念の理解が苦手です。込み入った文章や会話の内容を把握することが不得手なので、説明の方法に配慮をしましょう。   主な特性やそれに応じた配慮としては下記のようなものがあります。 ただし、人によって能力は異なり、また練習や訓練によってこれらの障害をある程度克服している人もいます。知的障害は個別性が高いので、あらかじめどのような配慮が必要か確認することが重要です。 主な特性と配慮のポイント 漢字の読み書きや、買物のお釣りのやりとりのような計算が苦手な人もいる。 人に質問したり、言葉で自分の気持ちを伝えたりすることが難しいため、状況に応じてコミュニケーションボードを活用するなど、その人の伝えたいことを理解するように努める。 周囲の状況の理解、未経験のできごと、急な状況変化に対応することが難しいため、緊急時や災害時には特に配慮が求められる。 一つの行動にこだわったり、同じ質問を繰り返したりすることがあるので、繰り返し丁寧に応対することが必要である。 コミュニケーションボード 知的障害や発達障害があり、言葉によるコミュニケーションが難しい人に対して、絵や記号、簡単な図を使って説明や意思表示などのやりとりができるようにしたものがコミュニケーションボードです。 コミュニケーションボードは様々な団体などが作成・提供しています。また、最近ではタブレットなどのアプリでも同様の機能を持つものが開発されています。 ここに図があります。 タイトル:コミュニケーション支援ボードの例 セイフティーネットプロジェクト横浜が作成したコミュニケーションボードの一つを図で掲載しています。 お店の人とやり取りするためのコミュニケーションボードです。 図の下に、下記「セイフティーネットプロジェクト横浜」ホームページからダウンロードできます。という文とURLが記載されています。 URL https://safetynet-yokohama.jp/tool.htm ここで図と説明文は終わりです。 ページ26 重症心身障害の状態にある人 重症心身障害とは、重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複している状態をいいます。食事や水分補給、排泄、入浴、移動など、日常生活のほとんどすべてにおいて援助が必要です。 主な特性と配慮のポイント 声が出せても会話で意思を伝えることは難しい。口や目の動き、身振りなどを用いて意思を伝えるが、日常的に介護している人でないと読み取りづらいこともある。 日常的に医療的ケアが必要であり、胃ろうや人工呼吸器を装着しているため、常に医師の管理が必要な人もいる。 在宅で介護している場合、保護者の外出機会が限られることから、情報を得にくい場合があるので、家族や支援者へ情報提供するなど、情報提供の対象や方法に配慮が必要である。 ページ27 統合失調症・気分障害・不安障害などのある人 精神障害のある人は、様々な精神疾患により、日常生活や社会生活のしづらさを抱えています。心の敏感さ、繊細さへの配慮が必要です。 適切な治療・服薬と周囲の配慮があれば精神疾患の症状をコントロールできるため、大半の人は地域社会の中で生活しています。 主な精神疾患 統合失調症 人口の約1%の人々が罹患する精神疾患で、発症の原因はよく分かっていないが、比較的一般的な病気である。幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情表出の減少などの陰性症状、集中力・記憶力、計画の立案、問題を解決する力などが低下する認知機能障害が主な症状だが、その他にも様々な生活のしづらさが障害として表れることが知られている。 気分障害 主なものに「うつ病」がある。気分が落ち込み、何事にも興味を持てなくなる、だるさを感じるなどの症状が続き、日常生活に支障が現れる。15人に1人が生涯に一度はうつ病を経験する可能性があるという報告がある。 また、「双極性障害」では、気分が上がりすぎる「躁」の状態と、気分が落ち込んでしまう「うつ」の状態を繰り返す。 不安障害 主なものに「パニック障害」がある。突然の激しい動悸、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの身体症状を伴った強い不安に予期せず襲われる(パニック発作)。このため、また発作が起こるのではないかと強い不安(予期不安)が続き、発作が起きたときに逃げられず助けが得られない状況や場所を恐れる(広場恐怖)ようになり、日常生活に支障をきたす。うつ病と併存する人が多いという調査結果がある。 てんかん 大脳の神経細胞が過剰に電気発射を起こすことで生じる。生じる発作は、脳のどの範囲で電気発射が起こるかによって異なる。てんかん発作の大半は一過性であり、適切な処置をすれば5分から20分程度で回復する。1,000人に5〜8人の患者がいるとされる。薬により約8割の人は発作をコントロールできると言われている。 主な特性と配慮のポイント 症状は疾患ごとに異なり、時期や個人でも差異があるので、その人に応じた配慮を心がける。 ストレスに弱く、疲れやすい人が多い。 人と対面することや、対人関係、コミュニケーションを苦手とする人もいる。 外見からは、障害のあることが分かりにくい。 過大な情報を一度に説明されると理解が難しくなることがある。 緊張して上手に話せない人もいる。 周囲から障害について理解されず孤立している人や、病気のことを他人に知られたくないと思っている人もいる。 警戒心が強くなったり、自分に関係ないことでも自分に関係づけて考えてしまったりする人もいる。 若年期の発病や長期入院のために社会生活に慣れていない人もいる。 ページ29 高次脳機能障害のある人 高次脳機能障害とは、事故や病気等で脳に障害を受けたことが原因で、言語・注意・記憶・遂行機能・社会的行動などに障害が生じ、社会生活への適応に困難を示す状態です。 具体的には以下のような症状がありますが、どの症状がどの程度現れるのかは人によって異なります。 注意障害 注意を、持続する、切り替える、複数のことに同時に向けることが難しくなる症状。例えば、気が散りやすい、一つのことに長く集中できない、一つのことが気になると切り替えられず、いつまでも気にしてしまう、一度に二つのことをしようとすると混乱するなど。 記憶障害 新しいことが覚えにくくなる症状。例えば、今日の日付が分からない、自分のしたことや言ったことを忘れる、一日の予定が覚えられない、何回も同じことを聞くなど。 遂行機能障害 計画を立てること、実行することが苦手になる症状。例えば、目的地までの所要時間の見当がつかない、指示してもらわないと何から始めてよいか分からない、行動が行き当たりばったりになるなど。 感情と社会的行動の障害 感情や行動を場に合わせてコントロールすることが苦手になる症状。例えば、ちょっとしたことに怒りっぽくなる、場に合わないところで笑ってしまう、やる気が出ない、欲求が抑えられない、場違いな行動や発言をするなど。 易疲労性 脳損傷により発症前より容易に脳が疲労する症状。例えば、よくあくびをする、すぐボーッとする、日により時間により調子の波が大きい、同じことができたりできなかったりするなど。 半側空間無視 大脳損傷では「半側空間無視」の症状が生じることがある。視野が欠けているわけではないのに、右または左側に注意がいかないため、見落としたり身体をぶつけたりするなど。 主な特性と配慮のポイント 外見からは、障害のあることが分かりにくいので、適切な理解や配慮が得られない場合がある。生活の中での具体的な状況を確認しながら、何に困っているのかを聞く。 本人も障害を十分認識できていない場合も多く、また、中途障害であることから自身の障害を受け入れられないこともあり配慮の申出が難しい。 具体的に生活状況を確認しながら、“困ったことはありますか?”ではなく、“何々のようなお手伝いがあったらもう少し楽に生活できますか?”と、具体的に聞く。 障害は、在宅での日常生活、職場、学校、買い物、事務手続、交通機関利用など、社会活動場面で出現しやすい。病院では環境が限定されているため、医療従事者は気づかないこともある。本人の話だけでなく家族(状況が許せば、職場、学校関係者)からも話を聞く。 社会的行動の障害がある人の中にはこだわりの強い人や、マナー・ルール違反を特に嫌がる人もいる。 こだわりを受け止めた上で、適切に対応する。 注意障害や記憶障害などの症状により頭の中の情報処理に時間がかかるため、一度に把握できる情報量が減っている可能性がある。 情報を伝えるときは、情報を絞って、ゆっくり、一つずつ伝える。 半側空間無視の症状がある人は、症状がある側に置かれたものを認識できないことが多い。できるだけ症状がない側に物を置いたり、症状がある側の情報を指し示したり、声掛けしたりして注意喚起する。 記憶障害のある人は、会話の内容を忘れてしまうこともあるので、要点をメモにして書いて渡すようにする。スマートフォン等の写真や動画による記録、スケジュール機能やアラーム機能の活用も、記憶を補うのに役立つ。 注意障害のある人との会話は、静かで、視覚的にも刺激の少ない環境で行い、会話に集中できるようにする。 易疲労性があると、集中力が続かず、同じ誤りを繰り返したり、指示が理解できなくなってしまうことがある。話題を切り替えたり休憩を取ったりして、気分転換を図る必要がある。 ページ32 発達障害のある人 発達障害とは、主に脳機能の障害であり、その症状が通常低年齢(18歳くらいまで)で発現するもので、しつけや性格に起因するものとは異なります。発達障害のある人はコミュニケーションが苦手で、発達障害の適切な理解が得られずに周囲の不適切な対応が原因で二次障害が生じる場合もあります。 自閉スペクトラム症(ASD) 他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害をいい、早期発見・早期支援が重要である。 呼びかけられても振り返らない、相手と視線を合わせようとしない、人の表情や感情を読み取れない、おうむ返しをする、独り言が多い、要望を言葉で伝えられずに人の手を引っ張るなど、他人との関わり方や会話に支障がある。 道順、手順、日課、物の置き場所などの決まりごとを変更すると不安を感じる。 知的発達の水準は様々で、知的発達や言葉の発達の遅れを伴わない場合もある。 人の気持ちを理解するのが苦手で、関心のあることばかり一方的に話す人もいる。 知的発達や言葉の発達の遅れを伴わない場合には、社会に出て人間関係に支障が出てから初めて気づく場合がある。 限局性学習症(LD) 全般的な知的発達に遅れはないものの、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指す。適切な支援や配慮が用意されたことで学習に取り組めるようになる人もいる。 学習障害の場合、従来の方法では学習が困難である。学習できないのは本人の怠惰によるものではないので、努力不足と責めないことが大事である。 注意欠如・多動症(ADHD) 年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力や多動性、衝動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすことがある。 忘れ物が多い、時間や物の管理ができない、集中力が続かない、じっと座っていられない、衝動的に行動するなどの障害があるが個人差が大きい。 主な特性と配慮のポイント 相手の意図がくみ取りにくい。 例:自分の思っていることと相手の理解とが違っていることが分からない。 対応:説明者の意図が伝わっていない可能性を考慮して応対する。 言語的コミュニケーションが苦手。 例:会話を続けることが苦手。 対応:質問をしたら必ず相手の答えを聞くなど、会話のルールを明確に示す。 感覚過敏 例:騒がしい場所が過度の刺激になる。 対応:落ち着いた環境を用意する。 こだわりがある。 例:マナー・ルール違反が許せない。 対応:こだわりを受け止めた上で適切に応対する。 読みの障害があると、文字の理解に時間がかかるため、配慮が必要な場合がある。 発達障害のある人の中には、たくさんの人がいる場所などで対応しているとパニック症状を起こす人もいる。この場合、場所を変え落ち着くまでクールダウンの時間をとり、落ち着いた後に対応するか、再開するか、日を改めるか、本人に意向を確認した上で対応する。 ページ34 色覚異常のある人 パソコンやスマートフォンの普及、印刷技術の進歩によって、私たちの社会では「色」を利用することでより豊富な情報を扱うことができるようになりました。しかし、色の感じ方は人それぞれに違いがあります。特定の色の組み合わせが見分けづらい「色覚異常」は、障害としては扱われないことが多いものの、色の見え方が異なる少数派の人が社会生活の中で不便を感じるという点では、障害のある人への配慮と同様の対応が必要な場合があります。 なお、色覚異常であっても色の見分けが全くつかない人はごくわずかであり、大半の人は適切な配慮によって色による情報を利用することができます。 カラーユニバーサルデザイン 2色以上の色を使うときや写真などの上に文字を重ねるとき、多くの人にとって見分けやすい色づかいを行い、その上で形や塗り分け、文字などを併用することで、読めない、使いづらい、分かりづらいといった状態を解消し、できるだけ多くの人に情報が正確に伝わるようあらかじめ配慮する取組のことをカラーユニバーサルデザインと呼びます。主なポイントとして下記の3点があります。 1. できるだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ 色の濃淡・明暗の差をつける ここに図があります。 見分けにくい色の例と、見分けやすい色の例が並んでいる図です。 図の下に、説明文が書かれています。 説明文:背景と文字の色を明暗や濃淡が対照的な組み合わせとすると見分けやすい。彩度や明度が同程度の色の組み合わせは、見分けづらい人がいる可能性がある。 ここで図と説明文は終わりです。 色を変える 彩度の高い色と低い色、明るい色と暗い色を組み合わせると見分けやすい。 印刷、塗装デザインなどで具体的な色の組み合わせを考える際には、研究者、NPO法人、塗料メーカ業界団体、インキメーカ等で構成される委員会が制作した「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット ガイドブック」が公開されているので利用できる。 カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット制作委員会のホームページURL https://jfly.uni-koeln.de/colorset/ 2. 色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする 文字や線を太くすると色の違いが分かりやすくなる 色のほかに形も変えて表現する グラフなどの塗り分けに模様をつける 3. 色の名前などを用いたコミュニケーションを可能にする。 色の名前を併記する 窓口に備え付けの手続用紙を色分けしてある場合など、色の名前を用いてやりとりされる可能性があるものに、色の名前を記載すると分かりやすい。 ここに図があります。 左側には、ピンク色と水色の用紙に、申請書、と書かれている図があります。 説明文:バツ印、ピンクの用紙と言われても、用紙の色が見分けられない。 右側には、ピンク色と水色の用紙に、申請書、と書かれており、さらに、用紙の右上に、ピンク、みずいろ、と用紙の色が書かれている図があります。 説明文:マル印、用紙そのものに「ピンク」「みずいろ」などと色名が書いてある。 ここで図と説明文は終わりです。 色以外の情報も併記する 案内図や路線図、グラフなどで多くの色を使っている場合には、名称そのものも併記すると分かりやすい。 ここに図があります。 左側には、緑色の左向きの矢印と、赤色の右向きの矢印が並んでいる図があります。 説明文:バツ印、「緑の矢印の先が受付です」と言われても、矢印の色が見分けられない。 右側には、緑色の左向きの矢印と、赤色の右向きの矢印が並んでおり、さらに、緑色の矢印の中には、受付、赤色の矢印の中には、会計、と書かれた図があります。 説明文:マル印、矢印に「受付」「会計」のように案内が併記されている。 ここで図と説明文は終わりです。 ページ36 認知症のある人 「認知症」とは、様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態をいいます。 認知症をきたす疾患は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症など多岐にわたり、症状も多様です。いずれも、注意、記憶、言語、知覚、行為、社会性などの認知機能が複数低下します。多くは、軽度認知障害(MCI)から、緩徐に軽度認知症、中等度認知症、重度認知症へと進行します。二次的に派生する被害妄想、徘徊などの行動・心理症状は、周囲の適切な対応で軽減できる場合もあります。 主な特性と配慮のポイント 認知症のある人は、記憶障害により会話の内容を忘れてしまうことがあるので、要点をメモに書いて渡す。 加齢により、視野が狭くなっている場合もあるので、視野に入り、目を合わせて会話する。 その人のペースに合わせて、分かりやすく、具体的に話す。 一度に多くの話題に言及したり、急に話題を変えたりしないようにする。 妄想には理由があるので、否定せず、思いを受け入れる。 ページ37 重複障害(複数の障害を併せ有する人) 複数の障害を併せ有する状態のことを重複障害といいます。例えば盲重複障害、ろう重複障害などがあります。このガイドラインで掲載している盲ろう者や重度心身障害も重複障害の一つです。 重複障害では、それぞれの障害に起因する困難さのみでなく、それぞれが絡み合い、相乗的に困難さが増大することに留意します。下記は一例であり、併せ有する障害の種類や程度は一人ずつ異なるので、重複障害の様態は様々です。 盲重複障害の特性と配慮のポイント 例えば視覚障害と知的障害や発達障害を併せ有する人は、知的障害や発達障害で有効とされる絵や図を用いた視覚的コミュニケーションを取りづらいことから、体の動きなどで表現するサインなど、他の手段を活用する。 他者の存在の認識や空間把握も苦手であることが多いので、常に分かりやすく状況を伝えるようにする。また、見えていないことを理解しづらく、危険認識が薄いので、火や刃物、自動車などの危険要因に触れないよう、環境整備の配慮が必要である。 ろう重複障害の特性と配慮のポイント 例えば聴覚障害と精神障害や知的障害を併せ有する人は、後見人や支援者、医療関係者とのコミュニケーションを取る際に手話通訳や要約筆記が必要になることがある。このような際にも情報コミュニケーションの手段が確保されるよう、適切に派遣が行われることが望ましい。また、理由なく通訳者の同伴を拒まれることがないようにするとともに、意思疎通支援(7ページ参照。7ページには意思疎通支援の説明が記載されています。)については、当事者の心理的側面にも配慮した対応が求められる。なお、筆談を行う場合も、口頭でのやり取りや説明と同等の内容となるよう留意する。 通訳、要約筆記だけでは十分なコミュニケーションができない場合、当事者が理解できるコミュニケーション手段での支援が必要となる。 このように、重複障害では複数の障害があるために新たな困難が生じることがある。意思疎通だけでなく意思決定支援(7ページ参照。7ページには意思決定支援の説明が記載されています。)が必要な場合もある。こうした当事者のニーズに配慮した対応が求められる。 ページ39 参考:障害のある人への配慮や対応施設に関するマーク ここに図があります。 12種類のマークと、それぞれのマークの名前、マークの説明が掲載されています。 障害者のための国際シンボルマーク 濃い青色の四角の中に、白色で車いすに座っている人が描かれているマークです。 所管:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 説明文:障害のある人が利用できる建物、施設であることを表す世界共通のマーク。障害の種類や程度にかかわらず、全ての障害のある人を対象としている。 盲人のための国際シンボルマーク 青色の四角の中に、白色で白状をついて歩いている人が描かれているマークです。 所管:社会福祉法人日本盲人福祉委員会 説明文:視覚障害のある人の安全やバリアフリーを考慮した建物、設備、機器に表示する世界共通のマーク。このマークを見かけた場合には、視覚障害のある人の利用への配慮が必要。 身体障害者標識 青色の円の中に、白色の四つ葉が描かれているマークです。 所管:警察庁 説明文:肢体不自由であることを理由に免許に条件を付されている人が運転する車に表示する。危険防止のためやむを得ない場合を除き、このマークを付けた車に幅寄せや割り込みを行った運転者は道路交通法の規定により罰せられる。 聴覚障害者標識 緑色の円の中に、黄色の蝶が描かれているマークです。 所管:警察庁 説明文:聴覚障害であることを理由に免許に条件を付されている人が運転する車に表示する。危険防止のためやむを得ない場合を除き、このマークを付けた車に幅寄せや割り込みを行った運転者は道路交通法の規定により罰せられる。 ほじょ犬マーク 青色と白色を基調とした四角いデザインで、上部に英語でウェルカム、下部にほじょ犬と記載されており、中央には犬の顔を表現したイラストが描かれているマークです。 所管:厚生労働省 説明文:身体障害者補助犬法の啓発のためのマーク。身体障害者補助犬とは、盲導犬、介助犬、聴導犬をいう。身体障害者補助犬法において、公共の施設や交通機関はもちろん、デパートやスーパー、ホテル、レストランなどの民間施設は、身体障害のある人が身体障害者補助犬を同伴するのを受け入れる義務がある。 耳マーク 緑色の矢印で耳の形を表現し、矢印の先端が耳の中に向かっていることで、耳に音が入っていく様子を表現しているマークです。 所管:一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 説明文:聞こえが不自由なことを表すと同時に、聞こえない人・聞こえにくい人への配慮を表すマーク。 このマークを提示された場合は、相手が「聞こえない・聞こえにくい」ことを理解し、口元を見せてゆっくり、はっきり話す、筆談でやり取りするなど、特性に応じたコミュニケーションの方法に配慮する必要がある。 オストメイトマーク 黒色の上半身の人型の下腹部に、白色の十字マークが描かれているマーク 所管:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 説明文:オストメイト(人工肛門・人工膀胱を造設している人)のための設備があること及びオストメイトであることを表すマーク。対応トイレや案内板に表示される。 ハート・プラスマーク 青色の四角の中に、白色の上半身の人型があり、胸の部分に赤色でハートと十字(プラス)が重ねて描かれているマーク 所管:特定非営利活動法人ハート・プラスの会 説明文:「身体内部に障害のある人」を表す。 内部障害は外見からは分かりにくいため、障害の存在を示し、理解を得るためのマーク。 白杖SOSシグナル 普及啓発シンボルマーク 白状を垂直に頭上に掲げてSOSのサインを示している赤色の人型の周りを円で囲み、円の正面にSOSと書かれているマーク 所管:岐阜市福祉部障がい福祉課 説明文:白杖を頭上50cm程度に掲げてSOSのシグナルを示している視覚障害のある人を見かけたら、進んで声をかけて支援しようという「白杖SOSシグナル」運動の普及啓発シンボルマーク。 ヘルプマーク 赤色の縦型長方形の上部に白色の十字、下部に白色のハートが描かれているマーク 所管:東京都福祉局障害者施策推進部 説明文:義足や人工関節を使用している人、内部障害や難病の人、又は妊娠初期の人など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている人が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることができるマーク。 裏面に付属のシールを貼付すれば、配慮や支援が必要な事柄などを記載できる。 手話マーク 両手で手話を表現しているマークです。 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 説明文:耳が聞こえない人が手話でのコミュニケーションの配慮を求めるときに提示したり、交通機関の窓口や店舗等、手話による対応ができるところが提示する。 筆談マーク 筆談をし合う手を表現しているマークです。 所管:一般財団法人全日本ろうあ連盟 説明文:耳が聞こえない人、音声言語障害のある人、知的障害のある人等が筆談でのコミュニケーションの配慮を求めるときに提示したり、交通機関の窓口や店舗等、筆談による対応ができるところが掲示する。 ここで12種類のマークの図は終わりです。 障害のある人に関するマークの使用例 ここに図と写真があります。 4種類のマークの使用例の図と写真です。図の下には説明文が書かれています。 「耳マーク」を使用したカードの例 1枚のカードの図があります。一番上の1行に、耳が不自由です、という文が書かれています。 その下の左側に耳マーク、右側に、お手数ですが筆記してください、という文が書かれています。 説明文:マークの横に必要とする配慮が記載されている。 (全日本難聴者・中途失聴者団体連合会ホームページから出展) 視覚障害のある人等に配慮した機能がある歩行者用信号の押しボタン 歩行者用信号の押しボタンの写真があります。押しボタン箱には、盲人のための国際シンボルマーク、がついています。 説明文:歩行者用信号が青であることを音で知らせる機能や、横断時間を延長する機能があるものもある。 障害のある人優先、オストメイト対応のトイレの例 優先トイレの表示の写真があります。表示には、車いすマーク、オストメイトマーク、台に横たわる人と介助者の人型、ほじょ犬マークが掲示されています。 ストラップ型ヘルプマークの使用例 ヘルプマークをリュックに取り付けている写真です。 説明文:カバン等に着けて使用する。マーク本体の裏面に貼付できるシールを同封しており、シールには、氏名や連絡先、手助けしてほしいこと等が記入できる。 ここで図と写真、説明文は終わりです。